尿失禁について
尿失禁の種類
腹圧性尿失禁
咳やくしゃみ、ジャンプ、重いものを持ち上げたなど、急激に腹圧がかかった際に尿が漏れてしまう状態です。女性の尿失禁では最も多いのがこの腹圧性尿失禁で、週1回以上こうした症状の経験がある女性は500万人を超えているとされています。直立する人類は、臓器が下に下がらないよう強靱な筋肉や靱帯で構成された骨盤底筋群があって、尿道括約筋もこれに含まれています。妊娠出産によって骨盤底筋群は大きなダメージを受けることが多く、また加齢による筋肉の衰えで骨盤底筋群もゆるんでしまうため、女性に腹圧性尿失禁が起こりやすいとされています。また、激しい肉体労働や便秘で習慣化した強いいきみ、喘息なども骨盤底筋群にダメージを蓄積する原因になります。
切迫性尿失禁
突然強い尿意に襲われる尿意切迫感が起こり、トイレに間に合わずに漏れてしまうのが切迫性尿失禁です。頻尿や、急激な強い尿意が心配になって、トイレにすぐ行けない場所に出かける不安から外出が苦手になってしまうこともあります。男性は前立腺肥大症、女性は骨盤臓器脱が原因になって生じるケースがあり、脳血管障害などによって脳からの排尿のコントロールがうまくいかなくなって生じる場合もあります。また、明らかな原因がなく、膀胱が過敏になって勝手に収縮し、尿意切迫感や切迫生尿失禁を生じる過活動膀胱も最近増加傾向にあります。
溢流性尿失禁
尿を出したいのにうまく出せない排尿障害があって、尿が少しずつ漏れてしまう状態です。男性の前立腺肥大症で起こりやすい症状です。直腸がんの手術後、女性は子宮がんの手術後に膀胱周辺の神経機能低下によって生じるケースもあります。
機能性尿失禁
排尿機能は正常ですが、歩行障害などの身体運動機能低下や認知症が原因で尿失禁を起こしています。機能には問題がないため、泌尿器科の治療は必要なく、介護や生活環境などの改善が必要です。
検査
問診や排尿記録、尿検査、パッドテスト、超音波検査による残尿測定などでほとんどの場合は診断がつきます。チェーン膀胱尿道造影検査、尿流動態検査、膀胱鏡検査、脳や脊髄の画像検査などを行う必要がある場合には、連携している高度医療機関をご紹介しています。
尿検査
尿の成分や尿路感染症の有無などを確認します。
超音波検査
膀胱内に残っている残尿量を調べます。
パッドテスト
水分を摂取してからパッドをつけ、決められた動作や運動を60分間行ってからパッドの重量を計測し、尿漏れの量を調べます。尿失禁の重症度がわかります。
内診台での診察
骨盤臓器脱の有無を確認し、咳やいきみによる尿道の動きや尿漏れの状態を確かめます。
チェーン膀胱造影検査
チェーンのついたカテーテルを膀胱に挿入し、造影剤を注入して膀胱の状態を詳細に調べ、腹圧性尿失禁の診断に役立てます。
尿流動態検査
膀胱に生理食塩水を注入して、尿がたまっている状態や排尿時の状態を再現することで、膀胱の知覚や機能を確認します。
膀胱鏡検査
内視鏡で尿道や膀胱の中を直接観察する検査です。
治療
腹圧性尿失禁
軽度の場合には、ご自宅でもできる簡単なトレーニングで骨盤底筋群を鍛えることで解消が期待できます。肥満している場合には減量が尿漏れの改善につながることもあります。保存的療法では十分に改善しない場合には、ポリプロピレンメッシュのテープを尿道の下に通して尿道を支える手術で改善可能です。侵襲が少ないため回復も早く、再発しにくいとされています。
切迫性尿失禁
抗コリン薬やβ3受容体作動薬などによる薬物療法で症状を緩和させ、過剰な水分摂取の制限、骨盤底筋群のトレーニング、尿意を少し我慢する膀胱訓練などの行動療法を並行して行って症状改善につなげます。
また、前立腺肥大症や骨盤臓器脱など原因に疾患が関与している場合には、その疾患の治療が重要です。尿漏れ・尿失禁の症状がありましたら、お気軽にご相談ください。